音楽

【全曲紹介】電気グルーヴ – ORANGE

電気グルーヴのアルバム『ORANGE』の全曲紹介です。

はじめに

電気グルーヴの6枚目のアルバムです。1996年3月1日リリース。

前前作『VITAMIN』および前作『DRAGON』とは打って変わり、歌ものが全10曲中9曲を占め、歌詞もこれまで以上にふざけ度が増したことで、ある意味『KARATEKA』辺りの初期まで回帰したようなアルバムです。初期ほどのラップはありませんけどね。

初期のようなユーモアたっぷりな歌詞と『VITAMIN』以降のジャーマンテクノなトラックが絡まりあっており、その特徴から『ORANGE』は非常に電気グルーヴらしいアルバムだと思っています。

電気グルーヴらしさが詰まったアルバムという意味で、『ORANGE』は彼らの作品のうちでは個人的ベスト3に入るレベルでお気に入りです。

それでは、全曲紹介にいってみましょう!

1.ママケーキ

珍しく砂原良徳の歌唱が入る曲。当時のメンバー3人(石野卓球・ピエール瀧・砂原良徳)でしっかり歌詞が割り当てられて歌っている曲はこれだけ。

ベースのうねりが心地よく、ハウスを志向している音作りとなっています。歌詞はとってもふざけていますけどね。

ツイてねぇ!ツイてるわけがねぇからほんとにノッてるわけもねぇ!

と一人暮らしの男の不運を嘆いていますが、このフレーズは中山美穂の楽曲「ツイてるねノッてるね」を意識した内容らしいです。リアルタイムで経験してないとネタがわからない…

歌詞の男についてまとめると、「上京してきて一人暮らしを始めたものの、うまく社会に馴染めずバイトも十分にできず、上京8年目ににして小遣いせびりに里帰りして兄の奥さんに手を出し漁船に乗せられる」というとんでもないドラマチックな内容となっています。絶対に経験したくない。

作詞・作曲

作詞:石野卓球・ピエール瀧

作曲:石野卓球

再生時間

6分54秒

2.誰だ!

今でも頻繁にライヴで演奏される、『ORANGE』における代表曲的存在。

徐々に重なっていくシンセとドラム、こういうシンプルで王道な構成、たまらないです。石野卓球による高音シャウトのかすれ具合もエモーショナルで素晴らしい。そしてこの曲も「ママケーキ」と同じくベースのうねりがたまらなくグルーヴィーで、ひたすら音に身を任せることが出来ます。ほんと大好き。

歌詞は色んな事象の原因やその他諸々を「誰だ!」で問いかけ続けるやりたい放題なおふざけ全開の内容ですが、最後のフレーズ

いったい俺は誰なんだ!

がこの曲とアルバム、更には電気グルーヴそのものを表しているように思います。

NHKの「ポップジャム」、フジテレビ系のクイズ番組「天才!ヒポカンパス」、毎日放送系のドラマ「古代少女ドグちゃん」という、全部別系列の3つの番組にタイアップしていたというのだから驚きです。このシュールな歌詞でよくタイアップできたな…

YouTubeで当時のライブ映像がありました。NHKでこれだけやりたい放題やってるのは、本当に凄い。ピエール瀧の隣りにいる女性は一体何者。その界隈ではNHKはサブカル大好き放送局としてその名を轟かせておりますが、勿論電気グルーヴとの相性も○です。

キャーキャー言われているのが、非常に新鮮です。当時は電気グルーヴもアイドル的存在だったのでしょうか。

作詞・作曲

作詞:石野卓球・ピエール瀧

作曲:石野卓球

再生時間

6分54秒

3.キラーポマト

サウンドはBPM早めのリズムトラックに、ピエール瀧の歌詞と軽快なシンセが絡み合うダンサブルな楽曲。元々は前作「DRAGON」収録の『虹』がシングルカットされた際にカップリングとして収録されていた『Pomato』で、そのアレンジ違いです。

トラック単体だと少し陰鬱な雰囲気を残したダンスチューンといった様相なのですが、歌詞がシュール過ぎてカオスなバランス感覚を覚えます。そういうところが電気グルーヴの良さでもありますね。

誰のことについて歌ってるかはわかりませんが、歌詞はかなりキテる人の物騒な内容。

夜中にとびおき 神社を掃除 そのまま寝込んで 捜索願い
体がデカくて朴訥フェイス ふざけたつもりが殺傷事件

作詞・作曲

作詞・作曲:電気グルーヴ

再生時間

5分5秒

4.VIVA! アジア丸出し

岡村靖幸による「アジア~丸出しィ~↑」という、やたらソウルフルなコーラスが全編に渡って挿入されており、タイトルがサブリミナルに頭に残ります。

トラックもひたすらソリッドでかっこよく、岡村靖幸の独特すぎる発音のコーラスと絡まることで非現実感が高まり、トリップ感が生まれてきます。電気グルーヴはこれを狙っていたのでしょうか、、、

最後は違うシンセのループで雰囲気がガラッと変わり、そこに石野卓球およびピエール瀧によるコーラスが表に立って哀愁漂うしんみりした空気感が漂います。石野卓球の声の立ちの良さを思い知らされます。

作詞・作曲

作詞・作曲:石野卓球

再生時間

7分6秒

5.なんとも言えないわびしい気持ちになったことはあるかい?

やたら長いタイトル。このタイトルのフレーズを少しずつ変えながら曲を展開していきます。

サウンド面では『VITAMIN』『DRAGON』で多用されまくった、TB−303によるベースのうねりが良いグルーヴを生んでいます。

途中、石野卓球によるノスタルジックな光景についての語りが入ります。私はそのような光景を直接的に経験したわけではないのですが、その光景から感じられるであろう哀愁を声とトラックから感じさせることのできる表現力を持つ電気グルーヴはすごいなと思わされます。

作詞・作曲

作詞・作曲:石野卓球

再生時間

5分15秒

6.ポパイポパイ

作詞作曲ピエール瀧の楽曲。『VITAMINの』における「富士山」や、『DRAGON』の「お正月」みたいな雰囲気です。

意識しているところも多いでしょうが、ピエール瀧の発声も相まって船が出港するときのマーチのような勇ましさを演出しています。最後の方は半笑いになったりしており、ゆるい感じがたまりません。

歌詞はタイトルにある、「ポパイ」について。オカマバーのママだったり、ブティックだったり、走り屋だったり、ブティックだったりします。それぞれの説明がやたら詳しいせいで、それぞれのポパイのイメージが無駄に解像度が高めになります。

作詞・作曲

作詞・作曲:ピエール瀧

再生時間

5分6秒

7.反復横飛び

このアルバム唯一のインスト。

イントロのシンセの音を細かく左右にパン振りし、本当に左右に跳び跳ねている感覚に陥る、ミニマルな曲です。

シンバルやコーラスが加わったり、バスドラムのキックのタイミングが変わるとシンセのフレーズのニュアンスも大きく変わり、そういう起伏の付け方はとても好みです。

唐突に挿入されるニュースは、徳光和夫さんによるものらしいです。シュールを突き詰めてますね。

作詞・作曲

作曲:石野卓球

再生時間

5分6秒

8.スコーピオン

「誰だ!」と同じくらいの、『ORANGE』における代表曲の一つ。

砂原良徳作曲ということもあり、非常に整ったグルーヴをしています。ベースの効きっぷりがよい。

歌詞はかなり危険なシチェーションが列挙され、それらを全部「困っちゃう困っちゃう」で片付けていきます。のんきというかシュールというか。

散歩をしてたら地雷を踏んで困っちゃう困っちゃう

作詞・作曲

作詞:ピエール瀧

作曲:砂原良徳

再生時間

5分6秒

9.スマイルレス スマイル

ダブステップ調の曲。前曲『スコーピオン』までがひたすらアッパーな曲だった中、ここにきて一息。

歌詞は笑顔についてで、なんだか意味深。笑顔の裏には一体何があるのでしょうね。なんにもないのかもしれませんけど。

逆さま 薄笑い イカサマスマイル
気持ちで笑わない それもスマイル

作詞・作曲

作詞・作曲:石野卓球

再生時間

7分40秒

10.Tシャツで雪まつり Including 燃えよドラゴンのテーマ

『なんとも言えないわびしい気持ちになったことはあるかい?』と同じレベルの長いタイトル。

『燃えよドラゴンのテーマ』がサンプリングされている事から、作曲者にラロ・シフリンがクレジットされています。これのことですね↓

歌詞はピエール瀧特有の下品なワードを織り込みまくり、タイトルの『Tシャツで雪まつり』ってワードが一言も一切出てこない、意味が分からない内容。こういうのが彼らのいいところですよね。

作詞・作曲

作詞:ピエール瀧

作曲:電気グルーヴ、ラロ・シフリン

再生時間

7分40秒

まとめ

歌ものが多く、語感で攻めてくるタイプの曲がほとんどであるのが本当に大好きで、電気グルーヴのアルバムの中で私がリピートする率が最も高いのはこの『ORANGE』です。

ただ、「なんとも言えないわびしい気持ちになったことはあるかい?」や「スマイルレス スマイル」などが典型的ですが、『ORANGE』には哀愁漂うネガティブな雰囲気が根底にあり、電気グルーヴも色々悩んでいた時期だったのかもしれません。

サウンド面では前作からのTB-303バリバリのジャーマンテクノ路線を受け継ぎつつ、よりハウスやミニマルに近寄っていっているようで、次作のジャパニーズテクノの重要な名盤『A』への布石が敷かれつつあるのが見受けられます。

目立つアルバムでは決してありませんが、一曲ずつでもアルバム全体でも楽しんで聴ける、隠れた名盤です。超オススメ!!

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もいもい
多趣味なリーマン。音楽・ゲーム・旅行等を中心に、興味を持った事柄について取り上げていきます。